貴重な老後資金の運用で損失を抱え「こんなはずじゃなかった」と嘆く高齢者は少なくない。
大手証券会社出身、現在は“シニア投資コンサルタント”としてシニア世代の運用見直しに従事する西崎努氏は「まとまった資金を口座にもつシニアは金融機関の格好のターゲット」だという。『老後資産の一番安全な運用方法 シニア投資入門』の著者でもある同氏が、シニア世代の運用の実態と、適切な運用方法のポイントを解説する。
親の資産状況を把握していますか?
いきなりですが質問です。次のチェックリストにいくつ◯をつけられますか?
□親の預金口座、証券口座がどこにあるか知っている
□親の貯蓄がいくらあるか、だいたい把握している
□親の株や投資信託などの評価額を把握している
□親が加入している保険の種類を把握している
□現在の預貯金の金利を知っている
すべて把握しているという人は案外少ないのではないでしょうか。
もしあなたが親の資産状況を知らないのだとしたら、大切な家族の資産が知らぬ間に危険にさらされてしまうかもしれません。
最近では某保険会社が高齢者などを対象に20万件以上も不適切な販売を行ったことが問題になりました。このような明らかに不正とされる例以外にも、本人の意向に沿わないようなハイリスク商品や、不必要に高額な手数料を払っているケースは多々あります。
きつい言い方をすれば、まとまったお金を持ちながら判断力が衰え始めたシニア世代は、金融機関の“カモ”になりやすいのです。
実際に私のところに駆け込んできた方の運用トラブルをいくつか紹介しましょう。すべて実際にあった話です。
Bさんは、以前から付き合いのある証券会社の担当者から、新規公開する某通信会社の株を勧められました。
「この株は非常に期待できるので、人気があってなかなか手に入りません。この銘柄でこれまでの損を挽回しましょう」
そう言われて3万株、申し込んだそうです。
その後、担当者からは「頑張って取ってきました」と申し込んだ3万株がすべて取れたとの連絡を受けました。さらに「本社でキャンセルが出たので追加で取れそうです! 追加で申し込みましょう」との提案を受けましたが、さすがに余裕資金の上限を超えるのでそれは断ったそうです。
さて、本当に人気のある新規公開株がこんなに都合よく回ってくるものでしょうか? 通常は考えられません。こういったセールスがある場合は、だいたい売れ残りの在庫処分のようなものだと考えていいでしょう。
結果はというと、この株式は上場後、株価が大きく下落。しかも話はそれで終わりません。その後、大手生命保険会社の公募増資が発表されると、今度は「これで通信会社の株の損失を取り返しましょう!」と勧めてきました。Bさんはその言葉を信じて通信会社の株を損切りし、約750万円の損失が確定。代わりに生命保険会社の株を買いました。
ところが、この乗り換えが完全に裏目に出ます。通信会社の株は売った直後から値上がり。一方で生命保険会社は不祥事で株価が下落して約860万円の評価損が発生。結局Bさんは約1600万円もの含み損を抱えてしまいました。
知らぬ間に資産を減らす「隠れコスト」
次は60代の男性Dさんのケースです。
Dさんは親の相続をきっかけに証券会社に口座を作り、担当者から勧められて米国株式への投資を始めました。ちょうど米国株式相場が大きく上昇していたこともあり、購入する銘柄がことごとく値上がりしていきました。
ところが、コロナショックで状況は一変。これまでの利益が吹き飛ぶほどの評価損となり、慌ててこれまでの取引を見直してみることにしました。
すると、通常、証券会社を通じて証券取引所に注文を出す「委託取引」ではなく、証券会社との相対で売買をする「仕切取引」で売買をしていることに気づきました。
確かにそのような説明があった気はしたのですが、委託と仕切と言われてもたいして気にしていなかったそうです。
そこであらためて調べると、「仕切取引」で購入した株価は前日株価終値から1〜2%程度高い価格で購入や売却をしており、委託注文に比べると割高な手数料を払っていたことがわかりました。Dさんの場合は金額にして300万円以上も高かったようです。
Dさんは、これまでは商品にさえ気をつければ大丈夫と思っていましたが、まさか取引方法でこんな違いがあるとは知らなかったといいます。
もう1つ、少し大きな金額の事例です。
ある有名企業の元役員であるEさんは、3億円の余裕資金を5年間、銀行が勧める投資信託で運用していました。
5年間でのトータルのリターンは400万円程度。年平均0.27%の利率にしかなりません。当時の相場は悪くなかったのに、これほど低いリターンしか得られないのは不自然です。
実はこの裏には、高額の手数料が隠されていました。購入当初の販売手数料が750万円。毎年の運用手数料が350万円。ただ投資信託を保有していただけで、なんと5年で合計2500万円ものコストがかかっていたのです。Eさんは損はしていないとはいえ、400万円の利益のために2500万円も使ったことになります。最も高い利益を得たのは金融機関です。誰のための投資だったのでしょうか。
これらの事例をご覧になって、どう思うでしょうか。自らインターネットなどで情報収集し、ネット証券で取引するのが普通の人たちからすると「金融機関に言われるまま投資するなんて、ありえない」と思えるかもしれませんが、これがシニア世代の資産運用の実情です。
投資信託協会が発表した2020年度のアンケートを見ると、金融機関に勧められて投資信託を買ったという人が全体の40%。しかも高年齢層ほど、割合が高く、60代では52.1%、70代では61.5%です。
これらのデータを見る限り、若い人ほど金融機関を頼らず、年齢が高い人ほどいまだに金融機関を信用しているように思えます。
そういう方ほど、勧められた金融商品を疑いもなく購入してしまいがちですが、これは要注意です。
自分がよくわからないまま相手に任せていると少しずつ損失が発生し、疑問に思って相談しても、「様子を見ましょう」といわれるだけ。「そんなものか」と考えてしまい、そのうち大きく元本を減らして大損してしまう方をたくさん見てきました。
また、そのような方に客観的な立場からアドバイスしても、購入した商品を整理することに対して、躊躇されることが少なくありません。金融機関との付き合いや担当者への情があるからです。
最近では本人がご高齢になり、心配になったお子さんたちがご相談にいらっしゃるケースも増えています。
担当者は運用のプロではなくセールスのプロ
金融機関は、退職金などでドサっと預かり金が口座に入ると、すかさず資産運用の営業をかけます。預金口座は営業リストのようなものであり、担当者は運用のプロではなくセールスのプロです。
そして金融機関が勧める金融商品は、顧客に適したものではなく基本的に「売りたい商品」です。
もちろん投資はリスクがあり自己責任で行うものですが、実は金融庁も以前から、金融機関の姿勢を次のように指摘しています。
「金融機関においては、短期的な利益を優先させるあまり、顧客の安定的な資産形成に資する業務運営が行われているとは必ずしも言えない状況にある。」(平成27事務年度の金融レポート)
つまり、短期的な利益を優先するあまり、顧客属性を無視した商品販売や、ニーズとは違う提案に前のめりになっていると金融庁ですら問題視しているのです。
金融機関が売りたい商品は主に、手数料や運用コストが高い商品です。
投資信託やファンドラップ、新興国債券や仕組債が代表的な商品で、最近は「仕切取引」といわれる、証券会社との相対取引(1〜2%の手数料をのせた価格)での米国株式の売買も提案されているようです。
とくに投資信託やファンドラップは、一度購入してもらえば、ずっと信託報酬を稼げる点で金融機関にメリットがあります。要するに手数料を得やすい商品であるため、ノルマを設け、顧客属性を無視してでも大量に販売しようとするわけです。
大手金融機関がこうまでして短期の利益を追求するのは、そこで稼がないとその巨大な組織を維持できなくなってしまったからです。
金融機関も人を抱えてビジネスをしている以上、利益を得なければならないのは当然です。ただ、その利益が顧客である投資家と相反していることは否めません。とくに現状ではコストの高い商品ばかり提案されているのが実態です。
こうした構造や背景を踏まえて、金融機関と向き合うことが、シニア投資ではとくに大切です。
シニア世代の「減らさない運用」に最適な金融商品とは
こういったトラブルを防ぐために、多くの方に知っていただきたいのが「シニア投資」という考え方です。
これから資産を築いていく現役世代と、貯蓄や退職金などで資産を築いてきたシニア世代とでは、ニーズも、投資の考え方も、最適な金融商品もまったく違います。
私のところに相談に来るお客様の多くは、ガンガン儲けることは望んでいません。大事な資産を「減らさない」安心を求めています。
私の考えるシニア投資のポイントは次の5つです。
@値上がりで儲けようとしない
A仕組みを理解しにくい商品は買わない
B運用コストは最大でも年1%以下に抑える
C現金化するタイミングを決めておく
D1つの金融機関だけに頼らない
『老後資産の一番安全な運用方法 シニア投資入門』(アスコム)書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします
当たり前のように感じるかもしれませんが、これらをチェックリストのように頭に入れて金融機関の話を聞いてみると、真逆の提案をされていることがよくあります。「人気の商品」とか「値上がりが期待できます」「毎月分配金が入って安心」などと言われると、そこにばかり気を取られてしまいますが、冷静になって考えればシニア世代が選ぶべき運用方法は、実にシンプルです。
例えば債券などは仕組みが単純で、比較的値動きが少ない金融商品です。しかし金融機関ではほぼ提案されません。
いずれにせよ、資産運用は当人のニーズありきです。金融機関の「売りたい商品」ありきの提案にうかつに乗らないために、親子で相談したり、第三者に相談するなどして、リテラシーを高める必要があるでしょう。
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👀 このような記事をせっかく目にしても、自分の問題として感じていないうちは、流し読みして終わってしまうものです。
しかしながら、このような記事は有りそうで無いモノですから、高齢の親御さんがいる方は、まだ関係ないと思わず読んで欲しいものです。
今回の記事も、高齢者が金融機関にダマされるという面においては、非常に典型的なケースです。
このような記事に接すると〜
「こんなケースは、ごく一部の不届きな金融機関の職員が起こしたこと・・・」
「ウチは大丈夫・・・」
「ほとんどの金融機関の職員は真面目に・・・」
〜といった感想を感じるだけで、自身の身に置き換えて考えることなく、すぐに忘れてしまう方が多いように思います。
しかし、この記事のように取り上げられ報じられるケースは、氷山の一角であり、そこまでは至らないながら、表面化しない金融機関によるダマしの被害は、無数に存在すると認識した方が良いのです。
このことは、金融機関による被害だけに限られたことではありません。
・「漫然とただニュースを見ている人」と「ニュースで取り上げられる事件から敷衍して自分の身に置き換えて教訓とすることが出来る人」
→ 「ダマされる人」になるか「ダマされない人」となれるかの分かれ道とも言えるでしょう。
上記の記事も特殊なケースと考えず、高齢者が金融機関とどのように対峙していけばよいか、是非とも反面教師として、教訓にしていただきたいと願います。
<金融機関にダマされる高齢者の典型@:現在の金融機関の認識が間違っている・・・「大きな銀行だから大丈夫」>
高齢者が現役世代であった頃、バブルがはじける前までは、金融機関は様々な規制に守られ、大蔵省も護送船団方式で金融機関を牛耳っていました。
逆に言えば、高齢者をダマすような悪辣な営業をしなくてもやっていけましたし、そんなことをすると大蔵省に目を付けられかねませんでした。
特に、銀行は一般消費者に対してはリスク商品をほとんど扱いませんでしたので、信ずるに足る存在だったと言えるでしょう。
銀行員と言えば、「黒縁めがねでマジメ」というイメージで、公務員に準ずるような職業イメージの時代でもありました。
今でも高齢者の皆さんは、この頃のイメージを引きずり〜
「天下の○○銀行なら・・・」
「銀行員が人をダマすことは・・・」
〜といった間違ったイメージを抱きがちです。
バブルが崩壊し、その後の金融ビッグバンによる金融の規制緩和により、金融機関のあり方は大きく変わりました。
特に、一般人から見た場合、「銀行」の変貌は大きく、「証券」・「保険」・「信託」・「サラ金」といった業際規制が事実上なくなりましたので、昔はお堅かった「銀行」が、今では事実上「株屋」「保険屋」「信託屋」「サラ金」も営業しているのです。
もはや牧歌的な「お堅い銀行員」の時代は遠い昔のこと。
グローバルな金融市場でハゲタカと戦わざるを得ない時代となり、自らもハイエナ化しています。
現在では、銀行はお堅い業種の代表ではなく・・・「株屋」「保険屋」「信託屋」「サラ金」の総元締めという位の認識を持たないといけません。
残念ながら銀行員でも「信ずるに足る人種」ではないのが現状です。
今回の事件のようにマルチに投資までさせるのは、明確に犯罪ですからさすがにあまりいないでしょうが・・・
油断すると、ワケの分らないリスク商品を購入させられることは日常茶飯事なのです。
「大銀行だから・・・」なんてゆう高齢者が、実は銀行にとって一番御し易い客と言っても過言では有りません。
<金融機関にダマされる高齢者の典型A:金融機関に「退職金活用」や「相続対策(遺言)」を扱わせてしまう。>
金融機関が高齢者を顧客化するキッカケとして重視するのは、「退職金」・「相続(遺言)」といった話題であることが多いです。
「退職金活用の無料セミナー」
「第二の人生を豊かに・・・無料相談会」
「著名な評論家の第二の人生についての講演会・・・」
「専門家のアドバイスが無料で・・・」
「相続対策無料セミナー」
〜等々といったイベントを始終開催しています。
高齢者としては、興味深い話題であると共に、金融機関が主催するとはいえ、金融商品購入に直接関係するイベントではないので「参考までに聞いておくか・・・」と警戒心も緩みがちです。
金融商品を売り付けなら断る人でも、「第二の人生を・・・」「争続を避けましょう・・・」などといった大義名分が有ると、簡単に金融機関のイベントに行ってしまうものです。
イベントに参加するとアンケートなどで情報収集され、その後営業対象とされます。
タダでイベント参加したという心理的な弱みもあるので、その後の営業も無下に断れない高齢者も多いのです。
悪いことは言いません。
本当にご自身の為の退職金活用や相続を行いたいなら、多少お金を払ってでも金融機関ではなく直接専門家に頼んだ方が良いのです。
金融機関の場合、当然ですが、その顧客の「退職金」・「相続」を取扱うことを通じて、自社の儲けに結び付けることが重視されます。
金融機関は、世の為人の為にボランティアでイベントを開催しているわけではありません。
あくまで顧客開拓のキッカケとして、無料でイベントを開いているのです。(建前上「そんな事は無い」と言いますが・・・)
近年は、社会全体にコンプライアンスにうるさくなり、直近の金融業界では「フィデューシャリー・デューティー」についてもうるさくなりました。
これで単純に金融機関が、高齢者をダマすことが無くなればいいのですが・・・
低収益に悩む金融機関が収益を上げる為には、収益性の高い(≒顧客が損する)金融商品を大半の金融資産を保有している高齢者に販売しなければならない構造は変わりませんので・・・
結局のところ、現在、金融商品の販売現場では、より周到に「契約書」・「確認書」・「上司を含めた確認」を残すことに 血道をあげる様になっているといっても過言では有りません。
家族が気付いて「適合性の原則」に則っていないと感じても、形式上「正当な取引」となって、昔のように口八丁手八丁で販売していた時代より、逆に手が出しにくい状態になってしまっています。
「コンプライアンス・・・」「フィデューシャリー・デューティー・・・」と姦しい現在こそ、くれぐれも高齢の親御さんがいる皆様は、親御さんが金融機関にダマされない様に注意を払って行かなければなりません。
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