この数年、大手銀行は投資信託の販売に力を入れている。預金と異なり、販売するたびに「手数料」が入る商品だからだ。そして銀行が熱心に売り込んでいるのが、銀行への信頼度が高い高齢者だ。エッセイストの鳥居りんこ氏の母親は、銀行員の女性から3000万円分の投資信託を購入させられ、2000万円以上の損失を被ったという。一体なにが起きたのか――。
*本稿は、鳥居りんこ『親の介護をはじめたらお金の話で泣き見てばかり』(ダイヤモンド・ビッグ社)の第1章「高齢者狙いの詐欺被害編」に著者が加筆したものです。
私の母は大手銀行にこうやって騙されました
この度、義憤を覚えて本を上梓した。こんなことがまかり通っていて良いのかという憤りがそうさせた。
「こんなこと」とは大手銀行が筆者の母を騙したことを指す。
著者・鳥居りんこ氏の最新刊『親の介護をはじめたらお金の話で泣き見てばかり』(ダイヤモンド・ビッグ社)。
私(筆者)は父亡き後、約10年間、難病の母を介護していたが、途中で在宅介護に限界を感じ、母を老人ホームへ移した。その時、入居一時金を払うため母の預貯金を確認したところ、「被害」に気付いたわけである。
投資のことなど何も知らない後期高齢者である母は、大手銀行のパートの外回りの女性の勧めで、他界した父親の退職金など約3000万円の投資信託を購入させられていた。
しかも年寄りには不必要なほどの頻繁な売り買いがあり、そのすべてがハイリスク・ハイリターン商品の売買であった。さらには運用益による分配金(利息)だと母が信じていた毎月30万円の入金は、実は元本を取り崩して支払われる「特別分配」(いわゆるタコ足配当)だった。預金は大きく元本割れを起こしており、私が気づいたときの評価額は1000万円を切っていた。
私が以下の2点から、この銀行の手口は悪質だと感じた。
▼1:「銀行」という名の「信用」を利用している点
母は昔の人なので、銀行員=お堅いという、一種の信仰心のようなものを持っていた。
言葉は悪いが「株屋さん」だとか「保険屋さん」は警戒するくせに、同じ金融機関でも、なぜだか「銀行」とりわけ「大手銀行」は真面目で誠実、人を騙すようなことは断じてないと信じ込んでいるようだった。
消費者金融ですら銀行系列の会社がある時代なのに、今も高齢者には銀行員に対する「信頼」があるのだ。よって、まさかいまの銀行が「手数料商売」に血眼となる「金融商品屋さん」であるとは思っていない。そんな高齢者を責める気にはなれない。
母はずっと「外回りの女性はとても良い人。私を騙すわけがない。だって、銀行さんだよ。しかも大手の」と言い続け、その女性をかばい続けていた。それは元本割れが家族に発覚した後も続いた。
銀行の部長「自分だったら、正直なところ買いません」
▼2:「特別分配」という語句で「タコ足配当」を巧みに隠し通したこと
その外回りの女性は、母の投資能力が「特別」(=当行のプロ集団が自信を持って運用している投資信託を選ぶあたり「お目が高いですね」という意味)だから月々30万円の利息が付いていると勧誘していたのだ。
自分の預金通帳に月々、まとまった金額が振り込まれ続けているのを見て、「なるほど、はいはい、タコ足配当=元本割れなのね」と理解できる高齢者がどれだけいるだろうか。銀行は「『投資信託取引残高報告書』を送付しております」と言うが、小さな数字を羅列してあるだけで、非常にわかりづらい。
私には「特別分配」という語句で「あなただけを特別に優遇しているVIP分配」と錯覚させ、「定期預金自動解約装置付きの元本割れ投資信託」とは悟られないようにしているとしか思えなかった。
この「特別分配金」という名称は評判が悪かったらしく誤解を生じやすいとして、投資信託協会からの通知で2012年6月1日から元本払戻金(特別分配金)という用語に変わっている。しかし、この通知以降も母は銀行員から「特別な分配金」と説明され続けていたのだ。
私たち家族は銀行に強く抗議した。銀行も本音と建前は違うようだった。担当部長氏は「自分だったら、正直なところ買いません」と言い、その場では「低い格付けの債券を売りつけたのは手数料収益のため」と認めていた。しかも、「自分たちは(そうやって)手数料で収益を得ることが仕事」と淡々と言うのだった。
▼銀行「お母様に丁寧に説明し、ご納得頂いていた」
だが建前では責任を認めることはなかった。わが家は「適合性の原則」(※)からの逸脱を銀行側に訴えたが、銀行は「お母様に丁寧に説明し、ご納得頂いていた認識(=母の署名あり)」の線を一歩も崩さなかった。
※顧客の知識、経験、財産の状況、金融商品取引契約を締結する目的に照らして、不適当な勧誘を行い、投資者保護に欠けることをしてはならないという規制のこと。
私たちの猛抗議に対し、銀行が手渡したのは金融トラブル救済機関のパンフレットだった。銀行がそのようなパンフレットを常備していることに驚いてしまうが、それだけトラブルが多いということなのだろう。そして、私たちはそのパンフレットに記載されていた救済機関に駆け込んだが、結果として裁判で戦うことはなかった。つまり泣き寝入りするしかなかったのである。
なぜか。
裁判で戦わず「泣き寝入り」するしかなかった2つの理由
ひとつは、これは母のお金だったという事実である。
家族からみれば、明らかに騙されているのだが、母は騙されていたということを断固として認めない。また母は銀行役席(管理職)の差し出す書類に、要所要所でたしかに母自身がサインをしているのだ。自分のお金をどう運用しようとも、原則としては母の自由である。
そして、何より裁判に訴えても、勝つ保証はない。時間と金を浪費しながら、長期にわたり、高齢な母に自責の念を思い起こさせることにもなる。高齢で難病である母の晩年が、まるで家族から責められ続けているかのようになるのは避けたかった。
私は「まさか大手銀行が高齢者をだますようなことをするとは、それまで考えたこともなかった。母のような『被害者』を出さないために、本を書こう」と決めた。
▼金融庁から大銀行へのご下命
もちろん、国も手をこまねているわけではない。母の“事件”は2015年までのことで、その後、国は対策に動き出している。
2017年3月、金融庁は「顧客本位の業務運営に関する原則」を打ち出し、金融事業者に顧客本位の業務運営、いわゆる「フィデューシャリー・デューティー」の確立・定着を求めた。「顧客本位の業務運営」に関する7つの基本原則とは以下の通りだ。
【原則1】顧客本位の業務運営に係る方針の策定・公表等
【原則2】顧客の最善の利益の追求
【原則3】利益相反の適切な管理
【原則4】手数料等の明確化
【原則5】重要な情報の分かりやすい提供
【原則6】顧客にふさわしいサービスの提供
【原則7】従業員に対する適切な動機づけの枠組み等
素人である私の解釈では、お上が「金融機関はこれまでのように、自社が一番儲かる商品を売ろうとするのではなく、投資家個々人にとって本当に必要な商品を売り、顧客にも利益をもたらすような金融サービスに努めよ」とご下命したということになる。
銀行員のカモになる高齢者は今後も減らないのか
母の件には残念ながら、このご下命は間に合わなかったが、これにより、金融機関の「カモ」になる高齢者が減ることを祈っている。ただ、このご下命は始まったばかり。現在、親御さんの介護に携わっておられる方、または高齢かつあまり金融系の知識には強くないと思われる親御さんをお持ちの方には、まだまだ注意が必要だ。
たとえ、認知症であろうがなかろうが、高齢者が「自分の金でこの金融商品を買う」と主張したならば、これからも金融機関は今までどおり、法的な手続きをクリアして、そうした「ご要望」に応じることだろう。たとえば母のように「ハイリスク・ハイリターン商品で運用したい」という書類にサインしていれば、その先は合法的な取引になる。
▼金融マンは詐欺師ではない。「職務」に忠実なだけだ
金融マンが詐欺師のような集団というわけではない。おそらく職務に忠実なだけであって、この低金利時代に課せられたノルマや目標を達成する「お仕事」を持っているにすぎない。それが「顧客の利益」ではなく「手数料」を重視する形になっていることが問題なのだ。
信用ある金融機関の、親身になってくれている(ように見える)「私だけの担当者」に対して、高齢者が「言いなり状態」になることは今後も大いに予想される。
親が子に対して積極的に財産開示をすることは少ないようだ。このため高齢な親を持つ者にとっては難しいミッションになるが、まずは親の金融知識がどのくらいのレベルであるのかを世間話の中で見極めてほしい。もし、時代に合わないようであるならば、親の金融資産がどこにあって、どのように運用されているかを、いち早く確認することだ。それは結果として高齢な親を救うことになる。
「振り込め詐欺」や「送り付け商法」など高齢者を狙った詐欺事件は後を絶たない。しかし、「ちゃんとした金融機関」であっても「金融セールスによる被害を受けることがある」ということを肝に銘じてほしい。ご家族は親御さんの大切な財産を、親御さんの納得のいく形で使えるように後方支援をしてあげてほしい。被害者のひとりとして、私はそう願っている。
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👀 このような記事をせっかく目にしても、自分の問題として感じていないうちは、流し読みして終わってしまうものです。
しかしながら、案外このような記事は有りそうで無いモノですから、高齢の親御さんがいる方は、まだ関係ないと思わず読んで欲しいものです。
今回の記事も、高齢者が金融機関にダマされるという面においては、非常に典型的なケースです。
このような記事に接すると〜
「こんなケースは、ごく一部の不届きな金融機関の職員が起こしたこと・・・」
「ウチは大丈夫・・・」
「ほとんどの金融機関の職員は真面目に・・・」
〜といった感想を感じるだけで、自身の身に置き換えて考えることなく、すぐに忘れてしまう方が多いように思います。
しかし、この記事のように取り上げられ報じられるケースは、氷山の一角であり、そこまでは至らないながら、表面化しない金融機関によるダマしの被害は、無数に存在すると認識した方が良いのです。
このことは、金融機関による被害だけに限られたことではありません。
・「漫然とただニュースを見ている人」と「ニュースで取り上げられる事件から敷衍して自分の身に置き換えて教訓とすることが出来る人」
→ 「ダマされる人」になるか「ダマされない人」となれるかの分かれ道とも言えるでしょう。
上記の記事も特殊なケースと考えず、高齢者が金融機関とどのように対峙していけばよいか、是非とも反面教師として、教訓にしていただきたいと願います。
<金融機関にダマされる高齢者の典型@:現在の金融機関の認識が間違っている・・・「大きな銀行だから大丈夫」>
高齢者が現役世代であった頃、バブルがはじける前までは、金融機関は様々な規制に守られ、大蔵省も護送船団方式で金融機関を牛耳っていました。
逆に言えば、高齢者をダマすような悪辣な営業をしなくてもやっていけましたし、そんなことをすると大蔵省に目を付けられかねませんでした。
特に、銀行は一般消費者に対してはリスク商品をほとんど扱いませんでしたので、信ずるに足る存在だったと言えるでしょう。
銀行員と言えば、「黒縁めがねでマジメ」というイメージで、公務員に準ずるような職業イメージの時代でもありました。
今でも高齢者の皆さんは、この頃のイメージを引きずり〜
「天下の○○銀行なら・・・」
「銀行員が人をダマすことは・・・」
〜といった間違ったイメージを抱きがちです。
バブルが崩壊し、その後の金融ビッグバンによる金融の規制緩和により、金融機関のあり方は大きく変わりました。
特に、一般人から見た場合、「銀行」の変貌は大きく、「証券」・「保険」・「信託」・「サラ金」といった業際規制が事実上なくなりましたので、昔はお堅かった「銀行」が、今では事実上「株屋」「保険屋」「信託屋」「サラ金」も営業しているのです。
もはや牧歌的な「お堅い銀行員」の時代は遠い昔のこと。
グローバルな金融市場でハゲタカと戦わざるを得ない時代となり、自らもハイエナ化しています。
現在では、銀行はお堅い業種の代表ではなく・・・「株屋」「保険屋」「信託屋」「サラ金」の総元締めという位の認識を持たないといけません。
残念ながら銀行員でも「信ずるに足る人種」ではないのが現状です。
今回の事件のようにマルチに投資までさせるのは、明確に犯罪ですからさすがにあまりいないでしょうが・・・
油断すると、ワケの分らないリスク商品を購入させられることは日常茶飯事なのです。
「大銀行だから・・・」なんてゆう高齢者が、実は銀行にとって一番御し易い客と言っても過言では有りません。
<金融機関にダマされる高齢者の典型A:金融機関に「退職金活用」や「相続対策(遺言)」を扱わせてしまう。>
金融機関が高齢者を顧客化するキッカケとして重視するのは、「退職金」・「相続(遺言)」といった話題であることが多いです。
「退職金活用の無料セミナー」
「第二の人生を豊かに・・・無料相談会」
「著名な評論家の第二の人生についての講演会・・・」
「専門家のアドバイスが無料で・・・」
「相続対策無料セミナー」
〜等々といったイベントを始終開催しています。
高齢者としては、興味深い話題であると共に、金融機関が主催するとはいえ、金融商品購入に直接関係するイベントではないので「参考までに聞いておくか・・・」と警戒心も緩みがちです。
金融商品を売り付けなら断る人でも、「第二の人生を・・・」「争続を避けましょう・・・」などといった大義名分が有ると、簡単に金融機関のイベントに行ってしまうものです。
イベントに参加するとアンケートなどで情報収集され、その後営業対象とされます。
タダでイベント参加したという心理的な弱みもあるので、その後の営業も無下に断れない高齢者も多いのです。
悪いことは言いません。
本当にご自身の為の退職金活用や相続を行いたいなら、多少お金を払ってでも金融機関ではなく直接専門家に頼んだ方が良いのです。
金融機関の場合、当然ですが、その顧客の「退職金」・「相続」を取扱うことを通じて、自社の儲けに結び付けることが重視されます。
金融機関は、世の為人の為にボランティアでイベントを開催しているわけではありません。
あくまで顧客開拓のキッカケとして、無料でイベントを開いているのです。(建前上「そんな事は無い」と言いますが・・・)
近年は、社会全体にコンプライアンスにうるさくなり、直近の金融業界では「フィデューシャリー・デューティー」についてもうるさくなりました。
これで単純に金融機関が、高齢者をダマすことが無くなればいいのですが・・・
低収益に悩む金融機関が収益を上げる為には、収益性の高い(≒顧客が損する)金融商品を大半の金融資産を保有している高齢者に販売しなければならない構造は変わりませんので・・・
結局のところ、現在、金融商品の販売現場では、より周到に「契約書」・「確認書」・「上司を含めた確認」を残すことに 血道をあげる様になっているといっても過言では有りません。
家族が気付いて「適合性の原則」に則っていないと感じても、形式上「正当な取引」となって、昔のように口八丁手八丁で販売していた時代より、逆に手が出しにくい状態になってしまっています。
「コンプライアンス・・・」「フィデューシャリー・デューティー・・・」と姦しい現在こそ、くれぐれも高齢の親御さんがいる皆様は、親御さんが金融機関にダマされない様に注意を払って行かなければなりません。
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